大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成4年(行ウ)22号 判決

原告

内村健一郎

外五名

右原告ら六名訴訟代理人弁護士

吉田清悟

右訴訟復代理人弁護士

金子武嗣

被告

大阪府池田土木事務所長

下条章義

右訴訟代理人弁護士

井上隆晴

右指定代理人

大津允

外八名

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

別紙物件目録記載の土地の内9389.09平方メートル(以下「本件申請地」という。)について、訴外株式会社坂生興産(以下「本件申請地」という。)について、訴外株式会社坂生興産(以下「坂生興産」という。)の申請に対して被告が平成四年一月一四日付けでなした砂防指定地内行為の許可(以下「本件許可処分」ともいう。)を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

本訴訴えを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

2  本案の答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  事案の概要

本件は、砂防指定地である本件申請地についてなされた砂防指定地内行為(果樹園造成工事)の許可(本件許可処分)が違法であるとして、付近に居住する住民である原告らがその取消しを求めた事案である。

一  前提事実(争いのない事実)

1  山林である本件申請地は、坂生興産の所有に係り、砂防法二条により主務大臣によって砂防地に指定された土地(砂防指定地)である。

2  大阪府は、砂防法四条一項、同法施行規程三条に基づく大阪府砂防指定地管理規則(昭和二七年大阪府規則第五六号。以下「管理規則」という。)で、治水上砂防のため砂防指定地内における一定の行為の禁止若しくは制限等砂防指定地の管理に関し必要な事項を定めている。これによると、砂防指定地内においては、宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更等一定の行為は知事の許可を受けなければしてはならず(同規則四条一項)、右許可を受けようとする者は、申請書に一定の書類を添付して知事に提出しなければならないとされている(同規則九条)。

3  原告らは、本件申請地の下方付近に居住する住民であって、その居住地は、概ね別紙図面に表示されたとおりの位置にある。

4  坂生興産は、平成三年一〇月四日、本件申請地について、前記2の法条に基づき、大阪府知事宛に砂防指定地内行為(果樹園造成工事、以下「本件造成工事」という。)の許可申請(以下「本件許可申請」という。)を行い、地方自治法一五三条一項、府土木事務所長等の職にある吏員に権限を委任する規則(昭和三五年大阪府規則第二一号)二条二一号によって大阪府知事から管理規則の規定による権限の委任を受けている被告は、平成四年一月一四日付けで、許可期間を同年四月二二日までとしてこれを許可した。

被告は、その後、本件造成工事について、坂生興産からの申請によって、同年四月二二日付けで許可期間更新(許可期間を同年六月六日までとするもの)の許可、同年六月六日付けで工事内容の変更(排水溝の経路の一部変更及びこれに伴う工事面積の若干の変更に関するもの)及び許可期間更新(許可期間を同年七月三一日までとするもの)の許可、同年七月三一日付けで工事内容の変更(排水溝の設置場所の一部変更及び植栽計画・しがら工の一部変更に関するもの)の許可をそれぞれ行った。そして、同年八月六日、坂生興産から工事終了届が提出されて、同月七日被告の竣工検査が終了した。

二  争点及びこれについての当事者の主張

1  当事者適格及び訴えの利益の有無について(被告の本案前の答弁に関する争点)

(一) 原告らの主張

(1) 当事者適格

原告らは、いずれも本件申請地の下方に近接する地域に居住する住民である。本件申請地は、砂防指定地でかつ四五度に近い急傾斜地であって、従前は竹薮やくぬぎ林等に覆われ、これが自然の防災機能を果たしていたが、本件造成工事が行われれば、竹木の根こそぎ伐採による土砂崩壊の危険に瀕することになる。従って、原告らは、本件許可処分に関し直接の利害関係を有するものといえ、その取消しを求める当事者適格を有する。

(2) 訴えの利益

原告らは、本件造成工事が森林の開墾であり、森林の開墾は竹木の根こそぎ伐採を当然の前提とするものであって、土地の開墾その他の土地の形質の変更に当たり、管理規則四条一項に基づく被告の許可の対象となるから、それを対象とした本件許可処分の取消しを求めているのであり、従って、訴えの利益を有することは明らかである。

また、本件許可処分が取り消されれば、原状回復として竹木の植栽を命じることも十分可能である。従って、本件許可処分を取り消しても原状回復として現実になされた工事以上の工事を行わせることはできないから訴えの利益を欠くともいえない。

(二) 被告の主張

(1) 当事者適格

処分の取消の訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限って提起することができ(行政事件訴訟法九条)、従って、本件原告らのような処分の相手方以外の第三者に取消訴訟の原告適格が認められるためには、当該処分によって侵害された利益が特に法律上保護された利益であることが必要である。これを本件についてみると、原告らの訴えの利益を基礎付けるものは、「本件造成工事による土砂崩壊の危険性」に対する生活安寧の利益である。しかしながら、原告らの居住地は本件申請地に近接してはいるものの、本件申請地はその下方部において東に傾斜しており、その地形からして原告らの居住地に本件申請地の土砂崩れによる土砂流出の被害が及ぶ危険性はほとんど存しない。また、本件造成工事施行中の万一の崩土や落石に対する安全対策としては、現場指示により、坂生興産に仮設防護柵を設置させ、更に、土砂流出の可能性が考えられる箇所については布団蛇篭等を設置させるなどして、万全の防災措置を取らせている。従って、原告らに土砂崩壊の危険が及ぶとは考えられないから、原告らは法律上保護された利益を有するとはいえず、本件取消訴訟についての当事者適格を有しない。

(2) 訴えの利益について

管理規則四条一項は、砂防指定地内において知事の許可を受けなければしてはならない行為を列挙しており、本件許可処分はあくまでそこに規定された行為についての許可である。しかるに、その中には竹木の伐採行為は挙げられていないから、本件許可処分は竹木の伐採行為を対象とはしていないのである。従って、竹木の根こそぎ伐採が違法であるとして本件許可処分の取消しを求める本件訴えは、訴えの利益を欠く。

また、本件許可処分をなすに当たっては、工事内容につき大阪府が砂防指定地内行為の許可をなす際の判定基準として策定している「砂防指定地内行為許可技術基準(案)」に適合するよう条件付けているのであり、現実にもそのような工事が行われている。従って、本件許可処分が取り消されたとしても、原状回復として新たに竹木の植栽を命じることはできず、現実になされた工事以上の工事を行わせることはできないのであるから、この意味でも、本件訴えは訴えの利益を欠く。

2  本件許可処分についての違法性の有無について(被告の本案の答弁に関する争点)

(一) 原告らの主張

本件許可申請の行為目的は果樹園(栗畑)造成工事となっているが、それは単なる名目であって、坂生興産が真に意図しているところは、本件申請地を宅地ないし墓地として造成することである。そのために、直接宅地ないし墓地の造成工事を目的として管理規則四条一項の許可申請を行っても許可を得ることは難しいが、同条三項二号では「第一項の許可を受けて造成された土地………における建築物の新築、改築、増築又は除却で土地の形状変更を伴わないもの」については同条一項の許可を要しないこととされているので、それを利用して、一旦果樹園造成工事を名目にして許可を得て農地に造成した後、更にそれを宅地ないし墓地に造成してしまえば、同条一項の許可の対象外となって、改めて許可を得なくとも宅地化ないし墓地化が図られることになる。現に、本件申請地における擁壁工及び排水工は同条一項の許可を受けて完了しており、建物建築用資材等の搬入通路や墓地として使用するのに不自由のない程度の通路も既にできあがっているから、ここに斜面地の形状を変更せずに階段式マンションや高床式建物ないしは墓地を建設するについては、もはや同規則上の許可を不要としうる余地が十分あるのであり、また、たとえ更なる許可を要するとしても簡単な事項に関するもので済むことになる。本件許可申請の隠された実質的な目的は、このような本件申請地の宅地化ないし墓地化にあり、このことは、本件造成工事には億単位の工事費を要するところ、本件申請地に数百本の栗を植えてみても全く経済的採算に合わないことからしても明らかであって、被告もこれは容易に知りうるところである。そして、宅地ないし墓地造成がなされれば、従前竹薮やくぬぎ林等によって保たれていた本件申請地の自然的防災機能は失われることになり、造成工事による防災機能は従前のそれに遠く及ばなくなる。従って、本件許可申請が、果樹園造成工事というのは形式的な隠れ蓑であって、このような隠された目的を有する、本件申請地を宅地化ないし墓地化するための脱法的準備行為であることを知りながら、経済的にも全く意味のない果樹園造成のため自然的治水機能を破壊する竹木の伐採を伴う本件造成工事を許可することは明らかに違法である。

(二) 被告の主張

本件許可申請に係る本件造成工事は、大阪府が砂防指定地内行為の許可をなす際の判定基準として策定している「砂防指定地内行為許可技術基準(案)」に適合し、同技術基準(案)に定められた一般的技術基準を満たすものであって、治水上砂防の観点からして災害防止のため十分な安全性を備えたものであるから、これを許可した本件許可処分は適法である。

原告らは、本件許可申請の隠された目的が本件申請地の宅地化ないし墓地化にあり、被告がそれを知りながら本件許可処分を行ったのが違法であるというが、本件造成工事の内容は、傾斜地を上下に四段に分け、若干切土して排水溝や杭しがらを設けた程度のもので、とうてい宅地造成とみられるようなものではない。本件申請地を更に宅地あるいは墓地に造成しようとすれば、コンクリート、石垣等による本格的な擁壁工事(宅地造成の場合)ないし通路の設置に伴う切土盛土工事、雨水の排水工事(墓地造成の場合)等が必要であり、簡単にそのような造成ができるものではない。従って、本件造成工事から原告らが主張する宅地造成や墓地造成等の隠された目的など察知できる余地はない。また、そもそも、本件申請地を宅地化ないし墓地化するには、都市計画法上の宅地開発許可ないし墓地、埋葬等に関する法律及び大阪府墓地等の経営の許可に関する条例に基づく許可は勿論、宅地開発ないし墓地開発を前提とした砂防法上の許可も必要であり、そのような許可なくしては造成はできない(本件許可処分は、あくまで果樹園造成を目的とした土地の形質の変更を、その限度で治水上砂防の見地から許可したものであるから、それ以上の形質変更をしようとするときには、管理規則四条三項二号の適用がない。)のであるから、この点からしても、本件許可処分を行うに際して宅地造成や墓地造成の隠された目的の有無を考慮する必要性はない。

第三  争点に対する判断

一  当事者適格及び訴えの利益の有無について(被告の本案前の答弁に関する争点)

1  当事者適格

(一) 砂防法は、治水上砂防のため、主務大臣の指定した土地(砂防指定地)において都道府県規則で定められた一定の行為を禁止若しくは制限することができるとしているが(砂防法二条、四条、同法施行規程三条)、これは、広く一般的に土砂の生産を抑制し、流送土砂を扞止調節することによって、災害防止を図ることを目的とした一般的公益保護の見地からの規制であると同時に、また、他方で併せて、砂防指定地での土砂の流出や崩壊、地滑り、出水等により一定の範囲の近接地域住民に災害が及ぶのを防止することによって、それら住民の生命、健康、財産等を個々人の個別的利益として保護することをも目的とした規制であると解せられる。このことは、急傾斜地の崩壊による災害から国民の生命を保護することを目的とした(即ち、急傾斜地の崩壊による災害の及ぶ危険性のある一定の範囲の個々人の生命を個別的利益として保護することをも目的とした)急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律において、都道府県は、急傾斜地崩壊防止工事を施行するものとされるが(同法一二条一項)、同条二項によると、砂防法二条の規定により指定された土地(砂防指定地)においては右規定を適用しないものとされている(即ち、砂防工事が急傾斜地崩壊防止工事をも兼ねることが予定されている)ことからも窺われるところである。従って、砂防指定地内での砂防法四条一項により禁止若しくは制限された行為による土砂の流出や崩壊、地滑り、出水等により直接的かつ重大な被害を受けることが想定されるような近接地域に居住する住民は、砂防指定地内行為の許可処分の取消しを求める原告適格を有するというべきである。

(二) これを本件についてみると、甲一、二号証の各一、二、三号証、四号証の一、二、五、六号証、八号証の一、二、乙一号証の一ないし六、一〇、一二、一三号証、検甲一ないし五号証及び原告内村健一郎本人尋問の結果によれば、本件申請地は、北方から連なってきた山並の南端に当たり、東側に下っているが同時に南側に向かっても急斜面となって傾斜していること、原告らの居住地は別紙図面表示のとおりで、原告加藤桂二郎方(殊にその所有地)は本件申請地の南端にほとんど隣接した位置にあり、原告内村健一郎方は間にテニスコート一つを挟んだ位置にあり、原告樋口英一方は道路及び空き地二つ位隔てた位置にあり、また、原告山里豊方は原告加藤桂二郎方から、原告岡田恵三郎方及び原告近藤利一方は原告樋口英一方からそれぞれ数軒隔てた南に位置していて、原告らの住居地は、いずれも本件申請地の南側に接して四〇軒ほどの居宅が一団の小街区を構成している地区の中にあることが認められる。このような本件申請地の地形及びそれと原告らの居住地との位置関係に照らすと、原告らは、いずれも本件申請地内での砂防法四条一項に基づく管理規則四条一項に規定された行為による土砂の流出や崩壊、地滑り、出水等により直接的かつ重大な被害を受けることが想定されるような地域に居住している住民であるといえる。従って、原告らは、本件申請地における砂防指定地内行為の許可処分の取消しを求める原告適格を有するというべきである。

2  訴えの利益

原告らは、本件造成工事が管理規則四条一項に規定された土地の開墾その他の土地の形質の変更に当たるから、右条項に基づく被告の砂防指定地内行為の許可の対象となることを前提として、本件許可処分の取消しを求めているものであり、また、本件造成工事が右条項に規定された土地の開墾その他の土地の形質の変更に当たることは乙一号証の一ないし六から明らかである。従って、右条項中に竹木の伐採行為が挙げられていないからといって、原告らの本件訴えが訴えの利益を欠くとはいえない。

また、本件許可処分が取り消されれば、被告は坂生興産に対して、原状回復として竹木の植栽ないしはその他の何らかの措置を命じることができる可能性があると考えられ(砂防法二九条、管理規則一七条。管理規則四条一項の中には竹木の伐採行為が挙げられていないからといって、自然的治水機能を回復させるための竹木の植栽工事を原状回復工事として命じることができないとは解されない。)、本件造成工事の内容が大阪府が砂防指定地内行為の許可をなす際の判定基準として策定している「砂防指定地内行為許可技術基準(案)」に適合するよう条件付けられていて、現実にもそのような工事が行われているからといって、原状回復として現実になされた工事以上の工事を行わせることはできないと断定することはできない。従って、本件許可処分が取り消されたとしても、原状回復として新たに竹木の植栽等現実になされた工事以上の工事を行わせることはできないから訴えの利益を欠くともいえない。

よって、本件訴えが訴えの利益を欠くという被告の主張は採用できない。

二  本件許可処分についての違法性の有無について(被告の本案の答弁に関する争点)

1  乙一号証の一ないし六、二ないし四号証、五号証の一、二、六、七号証、八号証の一ないし四、九ないし一一号証及び証人永井光の証言によれば、被告は、本件許可申請に対して、大阪府が砂防指定地内行為の許可をなす際の判定基準として策定している「砂防指定地内行為許可技術基準(案)」に照らして検討した結果、本件造成工事は、果樹園造成工事としては右技術基準(案)ないしはその趣旨に適合し、これに定められた一般的技術基準を満たすものであって、治水上砂防の観点からして災害防止のため十分な安全性を備えたものであると考えられたことから、これを許可したことが認められる。従って、本件許可処分は、砂防法及びこれに基づく管理規則の趣旨に則ったものであって、適法になされたといえる。

2  原告らは、本件許可申請の真の目的は、本件申請地を宅地ないし墓地として造成することであり、そのために、直接宅地ないし墓地の造成工事を目的として管理規則四条一項の許可申請を行っても許可を得ることは難しいので、管理規則四条三項二号で「第一項の許可を受けて造成された土地………における建築物の新築、改築、増築又は除却で土地の形状変更を伴わないもの」については同規則四条一項の許可を要しないこととされているのを利用して、一旦果樹園造成工事を名目にして許可を得て農地に造成した後、更にそれを宅地ないし墓地に造成し、改めて宅地造成ないし墓地造成のための許可を得ずして脱法的に宅地化ないし墓地化を図ろうとしているのであって、本件許可申請のこのような隠された実質的な目的を知りながらなされた本件許可処分は違法であると主張する。

甲一二号証の一ないし三、乙一号証の一ないし六、二ないし四号証、五号証の一、二、六、七号証、八号証の一ないし四、九、一〇号証、検甲一ないし五号証及び証人永井光、同坂本外生の各証言によれば、坂生興産は、本件造成工事に先立って行われた本件申請地の下部の法面に崩壊防止のための擁壁を設ける工事及び本件造成工事のために一億円余りの費用をかけたこと、本件申請地を本件許可申請の目的どおり果樹園として利用する限りではそれだけの費用に見合うだけの収益はとうてい上げられず、経済的採算に合わないことが認められ、このような事情からすると、坂生興産は、本件許可申請に当たっては、将来いつかの時点で本件申請地を果樹園から更に有効な他の用途に転用するという可能性をも当然念頭に置いていたものと推認することはできる。しかしながら、坂生興産が具体的に将来のある時点で本件申請地を宅地ないし墓地に造成する意思を有しながら、直接宅地ないし墓地の造成工事を目的として管理規則四条一項の許可申請を行っても許可が得られないことを慮って、原告らの主張するような隠された実質的目的をもって脱法的な意図で本件許可申請に及んだと認められる証拠はないし、被告が本件許可申請から坂生興産のそのような隠された実質的目的ないし脱法的な意図を知りえたということもできない。

また、そもそも、前掲各証拠によれば、本件造成工事の内容は、山林の樹木を伐採した後の傾斜地を切土して四段に分けて小段差を設け、排水溝や杭しがらを設置したうえ、法面保護工として種子の吹き付けを行った程度のものに過ぎず、本件許可処分は、このような本件造成工事を、果樹園造成目的の工事であることを前提とした上で、その限度において治水上砂防の見地からみて十分な安全性を備えたものとして許可したものであると認められる。従って、本件申請地を更に宅地あるいは墓地に造成しようとすれば、コンクリート、石垣等による擁壁工事ないし通路の設置に伴う切土盛土工事、雨水の排水工事等が必要であり、管理規則四条三項二号の適用により改めて許可を得ることなくそのような造成ができるとは考えられないし、許可なくしてそのような造成がなされれば、被告は、砂防法二九条、管理規則一七条により許可を取り消したり原状回復を命ずる等の監督処分を行うことができるのは当然である。このような点からすると、本件許可処分に当たっては、本件造成工事が申請どおり果樹園造成目的の工事であることを前提にして、治水上砂防の見地からその安全性についての審査がなされればよいのであって、申請人が更に将来本件申請地を宅地化ないし墓地化する目的を有しているか否かについてまで考慮する必要はないというべきである。

よって、原告らの前記主張は理由がない。

3  更に、原告らは、経済的に全く意味のない果樹園造成のため自然的治水機能を破壊する竹木の伐採を伴う本件造成工事を許可することは違法であると主張する。しかし、管理規則四条一項の許可に当たっては、あくまで申請に係る当該砂防指定地内行為が治水上砂防の見地からみて防災上安全なものであるか否かということを基準として、その許否を決すれば足りるものであって、当該砂防指定地内行為が経済的採算に合うものか否かについて考慮する必要のないことは明らかであるから、原告らの右主張も理由がない。

三  結論

以上により、原告らの本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官下村浩藏 裁判官山垣清正 裁判官清野正彦)

別紙物件目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例